「市民憲章とまちづくり」《Kindle》

三輪真之 (著), スマート・エコロジー企画 (編集) 形式: Kindle版 A5判/全270ページ

市民憲章とまちづくり

日本には、「日本らしいまちづくり」の志と作法がある。
戦後、日本の「まちづくり」の理念はいくつかの節目を経て大きく変わってきた。
例えば、昭和30年代までは「土木主体の都市計画」が主流で「まちづくり」という言葉さえ用いられなかった。その後、昭和40年頃から「施設や制度の整備に主眼を置いたハードな都市計画」に対抗する形で「地域の環境や生活の質を重視したソフトなまちづくり」という考え方が登場し、平成に入った頃からは、地方分権の潮流と呼応した「市民参加のまちづくり」、更に、行財政改革を背景にした「協働のまちづくり」といったスローガンが掲げられるようになった。
しかし、このような理念的な変化があったものの、多くの地方自治体における「まちづくり」の現場では、「外国の先進事例や東京での成功事例を勉強する」という一見もっともらしい方針が支持され、「横文字のプロジェクトが並んだ表面的な賑やかさ」とは裏腹に、大して活性化もしていないし住民の体質強化も進んでいないというのが実情である。
このような「まちづくりのねじれ」とも言うべき状況に抜本的な再考を迫った出来事が、実は、「東日本大震災」と「尖閣国有化」であると思われる。
すなわち、相次いで起きたこれらの二つの出来事は、何れも日本という国家にとって現在最も大切なことが「国際的にも国内的にも、真の日本らしさを自信と共に復活させること」であることに気付かせてくれたのではないかということである。
言うまでもなく、それは「国民一人一人の強い自覚と長期にわたる実践」によってしか実現し得ないことであるが、その確固たる礎となるものは「日本人らしい志と作法による日本らしいまちづくり」であり、そのような認識を象徴的に表現した言葉が「心のまちづくり」である。
「心のまちづくり」というスローガンは、近年、時代認識の鋭い首長によって新しい目標に掲げられつつあるが、現在の日本において、その趣旨に最も近いものは「市民憲章を基にしたまちづくり」であると考えられる。
従来、「市民憲章を基にしたまちづくり」は、必ずしも十分な評価を得てきた訳ではないが、日本が「歴史的な岐路」に立っている現在、「日本らしいまちづくり」を確立する上において、最も大きな意義と役割を持っていると言っても過言ではない。
本書を通して、「市民憲章」そのものへの理解を深め、「日本のまちづくり」の正しい方向性を見出して頂ければ幸いである。

著者プロフィール


昭和21年(1946)岐阜県生まれ、愛知県立旭丘高校卒、早稲田大学理工学部建築学科卒、
早稲田大学大学院理工学研究科博士課程(都市計画専攻)修了、博士(工学)・一級建築士、
・昭和47年(1972)から「計画哲学」(「日本人らしい人間哲学」を強く意識した計画論)を基幹とした政策・戦略・企画・デザイン等の研究および実践支援を行っている。
(学位論文は「まちづくりにおける市民憲章の計画論的意義に関する研究」)
計画哲学研究所・所長、(元・早稲田大学客員教授、元・東京デザイン専門学校講師)
・主要著書は、『認識論的人間論序説』・『概念の分析・資料(改訂版)』・『日本の市民憲章』
・近著は、『認識論的人間論・第1部-新しい人間哲学のために』(電子出版)
(市民憲章運動の支援のため、平成15年1月より「市民憲章情報サイト」を運営)
[所属学会]日本建築学会、日本都市計画学会、コミュニティ政策学会、自治体学会、比較思想学会
・高校時代から「司 真」のペンネームで、現代詩・短歌・俳句を実作(芸象文学会同人、詩集『澪標の歌』・『空蝉の歌』を出版)、近年は「平成演歌」を作詞。

目次


第一章 日本の市民憲章
1.市民憲章の歩み
[日本の「憲章」について][日本の市民憲章の歩み][市民憲章の制定事情]
2.市民憲章の制定状況
[全国の制定状況][市民憲章の制定されていない都市]
3.市民憲章の内容
[日本の市民憲章の例][市民憲章の形態][題の意味]
4.欧米型の憲章
[「チャーター」の起源と歴史][「欧米型の憲章」と「日本型の憲章」][都市憲章]
[イギリスの市民憲章][アテネ憲章]


第二章 市民憲章の本質
1.市民憲章の特徴
[本文の特徴][語彙の類似性][市民憲章の文章長と和語率][市民憲章の価値概念]
2.「のり」の伝統
[日本人の法意識][日本の法制][「のり」と市民憲章]
3.「和語」の力
[日本語の歴史][言霊と祝詞][日本語らしい言葉][日本の市民の言葉][日本語の語感]
[語種による使い分け][「和語」のはたらき]
4.創造の源泉
[自由な想像][デザインの原点][工夫好きの国民性]


第三章 日本のまちづくり
1.「まち」を「つくる」
[日本人の原風景][古代からの生活作法][生活と社会の変化][「まち」を「つくる」]
[まちづくりの主体][まちづくりの目標][まちづくりの側面]
2.「都市計画」と「まちづくり」
[「都市」の原型][西欧都市の特徴][西欧の「近代都市計画」][日本における「都市」]
[都市性と農村性][日本人の都市計画観][建設省と自治省][「まちづくり」の登場]
[「都市計画」と「まちづくり」の発想と手法][「都市計画」と「まちづくり」の範疇]
[「都市計画」と「まちづくり」の特質]
3.「市民参加」から「協働」へ
[日本における「市民」][市民参加の契機][市民参加の段階][市民参加の局面]
[市民参加の前提][市民参加の問題][新しい公共][「協働」概念の登場とその背景]
[「協働のまちづくり」の課題]
4.日本らしいまちづくり
[心を動かすもの][日本的なもの][「日本らしさ」について][まちづくりの「日本らしさ」]
[「東日本大震災」の教訓][「心のまちづくり」とは]


第四章 市民憲章とまちづくり
1.市民憲章と行政
[行政の仕事と住民の仕事][地域活動の支援][まちづくりに関わる法律]
[「条例」の法律性][集団規制の功罪]
2.市民憲章の位置付け
[総合計画とは][市民憲章と総合計画][自治基本条例とは][市民憲章と自治基本条例]
[まちづくり条例とは][市民憲章とまちづくり条例][手続きと意欲][都市宣言とは]
[市民憲章と都市宣言][主義主張の表現][まちづくり憲章とは][市民憲章とまちづくり憲章]
3.市民憲章と推進活動
[市民憲章の推進活動][推進活動の役割][市民憲章の広報状況][三啓発・七実践・五活動]
[市民憲章の「初志」][「新生活運動」について][「市民憲章運動」の原形][推進活動の組織]
[推進活動の「ステージ」][推進活動の成果]
4.まちづくりの基盤
[まちづくりの意欲][市民憲章の制定趣旨][「まちづくり」の言葉]
[「市の歌」と「まちづくり標語」][言葉の役割]、[挨拶と唱和]
5.新しい時代のまちづくり
[「状況」・「思想」・「方法」][新しい時代の状況][新しい時代の思想][新しい時代の方法]
[「像」から「運動」へ]


第五章 何故、今、市民憲章か
1.「光」としての市民憲章
[「市民憲章」への関心][「市民憲章」の今日的意義][「簡潔」・「肯定的」・「和語の多用」]
[市民憲章の機能][「明るい社会」とは][「地域愛」について]
2.市民憲章が提起する問題
[「法律」は世の中を良くするか][国民性を自覚させるもの][「高度知的市民」の参加意欲]
[「演繹力」の再評価][市民の「人間力」]
3.地方からの変革
[「地方分権」について][国会議員と市長][地方議員の役割][平成の大合併]
[合併に伴う新市民憲章の制定][新市における制定作業の意義][地方都市だからできること]
[困難を乗り越える智恵]
4.「まちづくり」から「世直し」へ
[市民憲章の役割][市民憲章の旗の下に]
[「心のまちづくり」の意義と「市民憲章運動」の役割][「信じ合える世の中」を目指して]
おわりに

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